四足歩行ロボットに、「バク宙(バックフリップ)」 をさせる ― 。踏み切って空中で一回転し、そのまま脚で着地する動作は、全身を一瞬で協調させるダイナミック制御の難所です。当社では、この宙返りを強化学習(Reinforcement Learning)で獲得しました。しかもそれは、安定して「歩く・登る」という日常的な移動能力の延長線上にあります。
デモ映像
土台は「崩れない歩容」
派手な宙返りは、確実な移動能力があって初めて成り立ちます。本デモの前半でも、全方向への移動・不整地の走行・階段の登坂(登坂高 +1.07 m の階段を、並列した16体すべてが成功)といった基礎動作を、同じ強化学習の枠組みで安定して実行しています。この「崩れない歩容」こそが、次のダイナミックな動作を支える基盤です。
歩行・不整地・段差そのものへのロバストな運動制御については、別記事「Unitree Go2 四足歩行ロボット 強化学習デモ成功事例集」で詳しくご紹介しています。本記事では、その土台の上に築いたダイナミックな全身動作 ― バク宙に焦点を当てます。
そして「バク宙」へ ― 難しさはどこにあるか
バク宙が難しいのは、全身を使った瞬発的な動作を、失敗の許されない一発勝負で決めきる必要があるからです。とりわけ厄介なのが、次の2つを同時に成立させる点でした。
- 十分に回りきる ― 空中で 360°しっかり回転する
- きれいに着地する ― 回転を止め、脚から接地して姿勢を立て直す
回転を欲張ると着地で背中から落ち、着地を優先すると回転が途中で止まる ― 開発の初期は、この「回転」と「着地」のトレードオフに何度もぶつかりました。空中では地面を蹴って姿勢を直すことができないため、踏み切った瞬間にすべてが決まるという難しさがあります。
「失敗から成功まで」― 段階を分けて学習する
ブレイクスルーになったのは、宙返りをいくつかの段階に分けて学習させるアプローチでした。いきなり完璧なバク宙を狙うのではなく、
- 踏切のタイミングを整える ― まず力強く跳び上がることに集中
- 「跳んで、まっすぐ着地する」を先に覚える ― 回転抜きの純粋なジャンプを事前学習
- 回転を後から足していく ― 安定した跳躍・着地の上に、少しずつ回転量を積み上げる
という順序で方策を育てていきます。土台となる「跳ぶ・着地する」が固まってから回転を加えることで、回転と着地を両立できるようになりました。
最終的に、四足歩行ロボットは 360°のバックフリップを、シミュレーション上で64回中64回成功させるまでに到達しました。回転しきって脚から接地し、着地後もぴたりと姿勢を保ちます。
まとめ
本デモで確認できた主なポイントは次のとおりです。
- 確実な移動が土台 ― 全方向移動・不整地走行・階段登坂といったロバストな歩容を強化学習で獲得
- 難関のバク宙を習得 ― 「回転」と「着地」を両立し、360°バックフリップをシミュレーションで64/64成功
- 段階的な学習が鍵 ― 跳躍・着地を先に固め、回転を後から積み上げる設計で難動作を安定化
宙返りそのものが目的ではありません。踏切・空中姿勢・着地までを全身で協調させるダイナミック制御は、段差の跳び越えや転倒からの復帰など、実環境で機敏に動くロボットに欠かせない要素技術です。今後は、こうしたダイナミックな動作をシミュレーションから実機へと広げ、より多様な環境で活躍できるロボットの実現に取り組んでまいります。