動画生成AIはこの数年で一気に実用域へ入りました。ところが最新の高品質モデルは数十GBのVRAMを前提とすることが多く、手元のコンシューマGPUでは「そもそも動かせない」という壁に突き当たりがちです。
今回紹介する Wan2GP は、その壁を大きく下げてくれるオープンソースの動画生成エンジンです。最小 6GB のVRAMから動作し、Wan / Hunyuan / LTX / Flux / Qwen といった主要モデルを単一のUIで横断的に扱えます。本記事に掲載する画像・動画は、すべてこの Wan2GP で実際に生成した出力です。
GitHub: github.com/deepbeepmeep/Wan2GP ― DeepBeepMeep 氏による開発
デモ映像
何を解決するのか
最新の動画生成モデルは、品質と引き換えに「重さ」と「扱いづらさ」を抱えています。
- SOTA級の動画モデルは数十GBのVRAMを要求し、RTX 10/20/30 系では動かない
- モデルごとに環境構築や推論コードがバラバラで、乗り換えのコストが高い
- 省メモリ化・高速化のテクニックはあるが、適用が煩雑
Wan2GP は、これらに対して次のような答えを用意しています。
- 最小6GBから動く自動メモリ管理(mmgp)
- 主要モデルを単一UIに統合し、アーキテクチャを自動判定してモデルを自動ダウンロード
- 量子化・オフロード・LoRA加速・Attention最適化を標準搭載
- Web UI だけでなく CLI・バッチ・MCP からも実行でき、自動化に組み込める
仕組み ― 役割ごとに分かれた5つの層
Wan2GP は、機能を層に分けて設計されています。
- インターフェース層 ― Gradio の Web UI、CLI(wgp_cli.py)、バッチ生成、MCPサーバ
- オーケストレーション層(wgp.py) ― モデル選択・設定管理・キュー処理・前後処理
- 最適化層(mmgp) ― オフロード・量子化・遅延ロード・VRAM/RAM の予約管理
- モデル層 ― Wan 2.1/2.2・Hunyuan Video・LTX Video・Flux・Qwen Image(+ LoRA / VACE)
- 基盤層 ― PyTorch + CUDA・Diffusers・SafeTensors・ffmpeg・SageAttention
この層構造のおかげで、利用者はモデルの違いをあまり意識せず、同じ操作感で多様なモデルを切り替えられます。
6GBで大規模モデルを動かす ― メモリ最適化
Wan2GP の核心は、限られたVRAMを賢く使い回すメモリ最適化です。
- 動的オフロード(mmgp) ― 計算に使うブロックだけをVRAMへ載せ、残りはRAMや予約領域へ退避。層単位でスワップしながら処理します。
- 量子化(int8 / fp8) ― 重みやテキストエンコーダを量子化してメモリを圧縮。たとえば Qwen ではテキストエンコーダの量子化だけでRAMを約10GB削減できます。
- VAEタイリング ― デコードをタイル状に分割し、高解像度でもVRAMのピークを抑えます。
- 遅延ロードと予約管理 ― LoRAやモジュールをRAMに一度だけ読み込み、無駄なロードを避けます。
これらを組み合わせることで、14B級の大規模モデルでも6GBクラスのGPUで動かせるようになります。
速くする ― 高速化技術
省メモリと並ぶもう一つの柱が、生成そのものを速くする工夫です。
- ステップ削減 ― CausVid / FusioniX などのLoRAアクセラレータで4〜12ステップに短縮。Lightning LoRA を使えば約7倍の高速化も狙えます。
- キャッシュ活用 ― TeaCache / MagCache がステップ間の再計算をスキップします。
- Attention最適化 ― Sage Attention で30〜40%の高速化。さらに PyTorch compile でグラフを最適化します。
一例として、FastWan 2.2 5B では720pの121フレームを約20秒で生成できます。
「作る」だけでなく「操る」 ― VACE / ControlNet
Wan2GP は、ただ動画を生成するだけでなく、生成結果を細かく制御できます。
- モーション転送 ― 制御用の動画の動きを、別の被写体へ移植する
- 人物・オブジェクト注入 ― 参照画像の被写体をシーンに合成する
- 精密マスキング ― 領域を指定して部分的に編集する
- アウトペインティング ― フレームの外側へ拡張して生成する
- Sliding Window ― 重なり処理で最大1分程度の長尺生成
- Multitalk連携 ― 最大2名の発話に同期したアニメーション
Pose・Depth・Flow といった制御信号を自動で抽出し、条件付けに使える点も特長です。
実際に生成してみる
Text-to-Video(動画生成)
プロンプトから動画を生成します。下は「砂地の海底と岩のキャニオンに日差しが差し込み、岩の間を小魚が漂う」といったプロンプトで生成した、海中や屋外の実例です(ここでは静止画。動きは冒頭のデモ映像でご覧いただけます)。
Text-to-Image(画像生成)
バージョン7.0以降、Wan系のモデルは画像生成器としても動作します。Flux Kontext や Qwen Image を使えば、高品質な静止画も生成できます。
性能の目安 ― ベンチマーク
RTX 4090 を基準にした、生成速度とVRAM使用量の目安です。
生成速度
| モデル | 解像度 | フレーム | 時間 |
|---|---|---|---|
| Wan 2.1 1.3B | 832×480 | 81 | 約15秒 |
| Wan 2.1 14B | 1280×720 | 81 | 約45秒 |
| Hunyuan Video | 1280×720 | 81 | 約90秒 |
| FastWan 2.2 5B | 1280×720 | 121 | 約20秒 |
VRAM使用量
| モデル | 解像度 | VRAM |
|---|---|---|
| Wan 1.3B | 832×480 | 6GB |
| Wan 1.3B | 1280×720 | 8GB |
| Wan 14B | 1280×720 | 12GB |
| Wan 14B | 1920×1080 | 16GB |
LoRA加速・量子化・オフロードを併用することで、ハイエンドに近い速度を保ちつつ、コンシューマGPUでも実用域に収められます。最小構成はVRAM 6GBからです。
使い方 ― Web UI から自動化まで
基本は Web UI ですが、CLI・バッチ・MCP からも扱えます。
# インストール & 起動
git clone https://github.com/deepbeepmeep/Wan2GP
pip install -r requirements.txt
python wgp.py # Web UI(Text-to-Video)
python wgp.py --i2v # Image-to-Video
# CLI から直接生成
./execute_t2v.sh "美しい夕日が海に沈む"
# バッチ生成(シード違いで大量生成)
python batch_t2v_generator.py prompts_t2v/test_prompts.xls
# MCP サーバ経由で AIエージェントから生成
python mcp_server.py
CLIやバッチに対応しているため、「プロンプトをまとめて投入して一括生成」といったパイプライン化も容易です。
まとめ
Wan2GP は、最新の動画生成AIを「手元のGPUで実際に動かす」ためのよくできた統合エンジンです。
- アクセシビリティ ― 6GBのVRAMから最新モデルを実行できる
- 統合性 ― Wan / Hunyuan / LTX / Flux / Qwen を単一UIで横断できる
- 最適化の標準搭載 ― 量子化・オフロード・LoRA加速・Attention最適化
- 制御性 ― VACEによるモーション転送・注入・マスキング
- 自動化 ― CLI・バッチ・MCPでパイプラインに組み込める
当社でも、動画・画像生成を伴う検証やプロトタイピングに、こうしたツールを積極的に活用しています。生成AIの活用や開発についてのご相談は、お気軽にお問い合わせください。