ロボットがどれだけ賢く考えられても、目が危険を見落とせば、正しくは動けません。当社の人工意識 AC(Artificial Consciousness) は、人格・思考・意図・注意といった高次の認知を積み上げた仕組みですが、そのすべての土台にあるのが「知覚=目(VLM)」です。
そこで今回は、賢さの側ではなく、「目」そのものを鍛えました。しかも教材は既製のデータセットではなく、危険場面 約7,000件を自分たちで構築しています。その結果、汎用のままでは見落としていた危険を、具体的に見抜いて説明できるようになりました。本記事は、その検証結果のご報告です。
デモ映像
なぜ「目」を鍛えるのか
人工意識 AC の中で、今回鍛えたのがどの部分かを示したのが下の図です。
課題ははっきりしていました。汎用の画像AIは、「きれいな写真ですね」とは言えても、「何が危険か」を的確に言葉にできないのです。しかし AC の注意システムは安全を最優先チャネルとして扱います。土台の目が危険を拾えなければ、その上の判断はすべて空回りしてしまいます。
だからこそ、目を「危険を見抜く目」に作り替えることにしました。
教材は、自分たちで作った ― 危険シーン約7,000件
今回の取り組みの中心は、実はモデルではなく教材(データセット)です。危険察知に特化した教材は既製品として手に入らないため、約7,000件の危険場面を、当社で構築しました。
カバーする分野は次の8つです。
災害/防犯/交通/動物/天候/人の安全/施設/美化
単に画像を集めるのではなく、「この場面の何が、どう危険なのか」を言葉で説明したアノテーションを付けていきます。この教材で、小さいAI(0.8B)と中くらいのAI(4B)の2サイズを、それぞれ専用に鍛えました。
評価の仕方 ― 「見せる」ではなく「測る」
効果は、危険シーン40枚のテストで測りました。AC の判断は「① 情景説明(今どういう状況か)→ ② 危険分析(何が危険か)」と段を踏むため、評価もこの2つで行います。
- 情景説明 ― 場面を正しく言語化できたか
- 危険分析 ― その中の危険を正しく指摘できたか
- 両方に合格 ― 上の2つを同時に満たした枚数(最も厳しい指標)
以下のグラフは、すべて素のモデル(FT前)との比較です。「良くなった気がする」ではなく、同じテストで何枚増えたかで効果を判定しています。
結果① 小さいAI(0.8B)― 全指標が向上
最も厳しい「両方に合格」が 18枚から30枚へ、+12の大幅改善です。当社のこれまでで最高のスコアでした。なお、元は合格していたのに悪化したケースは40枚中1枚のみ。「他を犠牲にして一部を伸ばした」のではなく、全体として底上げできています。
結果② 中くらいのAI(4B)― 取りこぼしを解消
4B は素のモデルの時点で34枚と、もともと高精度です。そのぶん伸びしろは小さいものの、残っていた誤りの大半をファインチューニングで解消し、悪化はゼロでした。
この2つを並べると、傾向が見えてきます。小さいAIはファインチューニングの恩恵を大きく受け(+12)、大きいAIは元の実力を仕上げとしてきれいに引き出す(+4)。どちらのサイズでも効果は確認できた、というのが結論です。小さいモデルでも鍛えれば実用水準に近づけられることは、ロボットに載せるうえで意味を持ちます。
結果③ 分野別 ― 教材を強化した分野が、そのまま伸びた
注目すべきは災害(0→4)です。素のモデルは災害シーンの危険を1枚も説明できていませんでしたが、鍛えた後は5枚中4枚に合格しました。これは教材で災害の語彙を重点的に増やしたことと、きれいに一致します。
つまり、「教材を強化した分野が、そのまま結果に表れる」という手応えが得られました。これは裏を返せば、現場ごとに必要な危険を教材に足せば、その現場に効く目を作れるということでもあります。
何を見抜けるようになったのか
鍛えた後のAIが、実際に危険をどう言語化したかの例です(NEW = FT前は見落としていたもの)。
| 分野 | 場面 | AIが指摘した危険 |
|---|---|---|
| 災害 | 建物から上がる煙 | 視界悪化・火災の兆候 NEW |
| 災害 | 冠水した道路 | 水没・通行不能 NEW |
| 災害 | 地震後の瓦礫 | 倒壊・落下物 NEW |
| 災害 | 斜面の土砂崩れ | 土砂・落石 NEW |
| 人の安全 | 倒れている人 | 意識不明の可能性・救護が必要 NEW |
| 人の安全 | 段差前の車椅子 | 転落・転倒 NEW |
| 人の安全 | 過密な群衆 | 将棋倒し・混雑事故 |
| 動物 | 通路上のヘビ | 咬傷 NEW |
| 動物 | ゴミを荒らすカラス | 鳥害・衛生 NEW |
| 防犯 | 壊された自動販売機 | 器物損壊・不審物 NEW |
| 防犯 | 放置された鞄 | 不審物の可能性 |
| 交通 | 倒れた自転車の列 | 通行妨害・転倒 NEW |
| 施設 | 破損したフェンス | 露出した鋭利な金属 NEW |
| 天候 | 台風後の飛散物 | 飛散物による衝突・転倒 NEW |
| 美化 | あふれたゴミ箱 | 散乱物による転倒・衛生 NEW |
| 美化 | 路上の割れたガラス | 切創 |
ポイントは、「ゴミがあります」ではなく「散乱物による転倒・衛生上の危険がある」まで踏み込めることです。ここまで言語化できて初めて、その上の行動判断(何をすべきか)につながります。
人工意識 AC の中での位置づけ
当社は以前、散らかった公園でロボットが何をすべきか自分で考えるという実証をご紹介しました。そこでは、画像1枚から 情景の理解 → 危険の知覚 → タスクの立案 → 根拠の説明 → 完了条件の定義 までを、完全ローカルで実行しています。
その記事の最後で「現場ごとにファインチューニングできる」とお伝えしましたが、今回はそれを実際にやって、数字で効果を確かめた回にあたります。土台の目が良くなれば、その上に積んだ判断の質もまるごと底上げされます。
まとめ
- 鍛えたのは「目」 ― 人工意識 AC の土台にある知覚(VLM)を、危険察知に特化させました。
- 教材は自作 ― 8分野・約7,000件の危険場面データセットを、当社で構築。
- 効果は本物 ― 0.8B は 18→30(+12・過去最高、悪化1枚のみ)、4B は 34→38(+4・悪化ゼロ)。両サイズで効果を確認。
- 教材と結果が一致 ― 特に災害が 0→4。強化した分野がそのまま伸びる=現場に合わせて作り込めるという手応え。
- 次の一手 ― 実機に載せて同じ効果が出るかを確認し、残る分野の教材をさらに強化していきます。
「危険を見抜く目」は、安全にかかわるロボットの土台です。当社は、教材づくりから評価まで自分たちの手で回しながら、人工意識 AC を現場で使えるものへ育てています。デモやご相談を承っています。